Post-WWII German "Folkology / History" - A Study of Walter Kuhn's Research History - Cover Image

第二次世界大戦後のドイツ系「民俗学/歴史学者」 ― ヴァルター・クーンの研究経歴をめぐる一考察 ―
Post-WWII German "Folkology / History" - A Study of Walter Kuhn's Research History -

Author(s): Yoshiyuki Morishita
Subject(s): Cultural history, Customs / Folklore, Higher Education , History of Education, Methodology and research technology
Published by: Slavic Research Center
Keywords: Austrian-born German folklorist; historian; Walter Kuhn; transition from "folk scholar" to "historian";

Summary/Abstract: 本稿は、ハプスブルク君主国領ビーリッツ(現ポーランド領ビヱルスコ=ビァワ)出身の ドイツ系民俗学者ゾ歴史学者ヴァルター•クーン(Walter Kuhn 1903-1983)の研究経歴を 考察するものである。具体的には、クーンの研究活動の場であった第二次世界大戦後の西ド イツのアカデミズムにおける「民俗学者」から「歴史学者」への移行、さらに晩年に彼が従 事した「故郷研究」を分析の対象とする。クーンが生まれ育ったビーリッツは、ハプスブルク君主国内のシレジア、ガリツィアの「境界領域」としてしばしば叙述され、ポーランド独立からナチス•ドイツによる占領、戦後のドイツ人追放を経験した地域であった。自らもドイツ人として故郷を離れたクーンは、前述のような複雑な歴史を持つ同地の民俗学者/地域史家として多くの著作を残している。他方、ドイツ民俗学(フォルクスクンデ)の文脈において、クーンは東欧ドイツ人居住地域を研究対象とする、いわゆる「東方研究者(Ostforscher)」として位置づけられてきた。彼が世に出る契機となったのは、20代後半から30代を過ごした戦間期に発表した、東欧におけるドイツ語話者マイノリティ「言語島(Sprachinsel)」研究においてであった。これらの業績が認められる形で、ナチス期に職を得たブレスラウ大学(現ポーランド•ヴロツワフ)を経て、戦後はハンブルク大学歴史学講座の員外教授を務めあげ、1968年の退官後は故郷であるビーリッツの地域史研究に従事した。「民俗学者」として多くの業績を持つクーンについては数多くの先行研究があるが、ほぼすベての研究において焦点が当てられているのは、彼の研究活動とナチズムとのかかわりである(1)。詳細は後述するが、彼の「言語島」研究がナチス の東欧支配イデオロギーに組み込まれ、本人も大学•研究機関という制度の中でナチスの人 種政策に携わったという議論である。クーンに限らず当時の様々な分野のアカデミシャンが ナチスの占領政策に「加担」したという問題については、先行研究において詳細に述べられ ており(2)、クーンとナチズムの関係についてもおおむね妥当なものと筆者は考える。従って、森 下 嘉 之

  • Issue Year: 2021
  • Issue No: 68
  • Page Range: 107-122
  • Page Count: 16
  • Language: Japanese